Histoire de Française

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眠り薬②

 一方クロードを「故障した車」のところまで連れて行き、そこで永久に別れることを心にきめていた夫のロベールは、肝心のその故障車がどこを探してもないことから、また疑惑秒念を深めることになった。つまりこの男は「通りがかりのもの」なんかではないということなのである。
 クロードのもしかすると修理屋がその事を朝早く取りに来たのかもしれない、という言葉を思い出したときにはすでにおそく、ロベールはすっかり細君と彼との仲を疑っていたのである。
 だがふとしたことから、クロードがユーロピアン・オイル・カンパニイの営業担当の重役であることが分かると、不思議なことに「仕事」を通じた男の共感が二人の間に生まれてくるのである。二人はたちまち共通の話題に夢中になり、やがてパリで新しい大きな取引を、二人の間で結ぶことに話はとんとん進んでゆく。そんなわけでついには、いつの間にかクロードをこの家から追い出すどころか、もう一晩ここへ泊めてじっくり「仕事」の話を煮つめよう、ということになってしまうのである。

 一方クロードはジャクリーヌの心にある「もしや」という不安を100%利用して、彼女の心にゆさぶりをかける。ジャクリーヌもなんだかそんな気持になってくるのである。
 そのときクロード・マジュールはロベール・ジローから意外なことを打ち明けられる。夫のロベールは細君の不貞の事実をすでにとっくの昔に知っていて、もう愛は冷め果てているのだが、今さら離婚してみてもはじまらないので現状維持のままでいるつもりだということである。

 クロードはロベールに細君との愛を回復する方法を教え、それを実行させるが、やはりうまくは行かなかった。
 逆にその結果ジャクリーヌは積極的になり、ロベールと別れてクロードと結婚しょうと言い出し、さすがのクロードもあまりのことに頭が錯乱してしまう。だがジャクリーヌはそんなことにはおかまいなし、夫のロベールに「夫婦関係のない夫婦生活なんか解消しよう」と申し出る。そして彼女はクロード・マジュールと結婚して新しい人生をはじめるつもりだと告白する。

 ロベールは潔く身を引いて二人の幸せを祈ることにするが、ついてはジャクリーヌのために買ったこの田舎の家を買いとってくれというので、クロードは仕方なく小切手を切り、書類にサインして、ジャクリーヌとの新生活のために、この田舎家を買い取ることにした。

 さて、これで万事片付いたと思ったのはクロードの思いちがいで、ふとしたことからクロードのついた嘘が次から次へとバレてしまい、ロベールとジャクリーヌは、自分たちがクロードにだまされてここまで来てしまったのだ、ということをはっきりと悟る。というのは、夫は昨夕この家に辿りついたのは十一時で、ジャクリーヌが睡眠薬を飲んだのはその19分前でしかなかったことが分かったからである。二人はあらためて二人の間について考え直し、もう一度やり直してみるためには、コート・ダジュールへ出かけようということになる。
 クロード・マジュールの目算はすべて外れ、彼は結局、田舎家を一軒買わされて夫婦二人においてきぼりをくわされることになったのである。クロードが二人の出てゆくときに呟く「実は私も田舎は大嫌いなんです」という言葉が、ひときわクロードの立場の滑稽さを浮彫りにしたところで、ようやくこの七転八倒のドラマも結末に近づくのである。

 ふとした偶然の成行きからおこったこの途方もない事件の発展は、元はといえばクロード・マジュール氏の口からの出まかせが原因であったわけだが、今その滑稽の極点に立つマジュール氏を、ただ自業自得とのみ笑い去ることの出来ないなにかが、そこにはあるのである。